大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟地方裁判所 昭和30年(行)2号 判決

原告 山口三九郎 外二名

被告 新潟県知事

主文

原告等の本訴を却下する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実ならびに理由

原告等訴訟代理人が述べた請求の趣旨及び原因、並びに被告訴訟代理人が述べた答弁の趣旨及び理由は、それぞれ別紙記載のとおりである。

よつて按ずるに、原告等が本訴において取消を求める処分は、被告が土地改良法第四十八条第三項において準用する同法第十条第一項の規定により訴外北蒲原土地改良区が被告主張の土地改良事業を行うことを認可した処分であることは、原告等の主張自体に徴し明らかであり、被告主張の日にその公告があつたことは、原告等が明らかに争わないところである。しかして右のような土地改良事業を行うことを認可した処分は、訴願法第一条にいわゆる「水利及び土木に関する事件」に該当するものと解するを相当とし、且つ右は地方自治法第百四十八条、同法別表第三(七十一)によつても明らかなように、知事の権限に属せしめられた国の事務に当り、しかも都道府県知事は行政組織上、右の事務を執行する関係では、主務大臣たる農林大臣の監督の下に立つべきものなることは同法第百五十条及び国家行政組織法第十五条、農林省設置法第三条第七号、第九条に徴して明らかなところといえ、農林大臣は右事務については訴願法第二条にいわゆる知事の直接上級行政庁に外ならず、結局右処分は訴願法により農林大臣に対して訴願ができるものというべきであり、(ちなみに旧耕地整理法第八十六条参照)従つて行政事件訴訟特例法第二条により、右処分の取消を求める訴は、まずこれに対する訴願の裁決を経た後でなければ、提起することができないものといわなければならない。しかるに、本件認可処分に対しては、訴願法に基き訴願がなされたことにつき、なんらの主張立証がなく、もとより、訴願の裁決を経ないことにつき正当の事由があつたことを認むべき資料もない。しからば、本訴は、行政事件訴訟特例法第二条に違背して提起されたものでこの点において既に不適法なものといわなければならないから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三和田大士)

(別紙)

第一、

原告等の請求の趣旨

被告が昭和二十九年五月三十一日付を以て北蒲原土地改良区分田事業所区域の灌漑排水事業につきなした認可はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とす。

請求の原因

一、原告等は北蒲原土地改良区の組合員であるが、原告等所有の土地地方である字新座裏、新座村、羽黒裏、六枚橋乾田、内外山王館の越は丘陵地帯で、土地改良は勿論灌漑排水の便よく唯一の裏作地帯であるので、昭和二十七年度土地改良工事施行の際、部落排水溝の南側土地に対しては改良事業を行うも本件土地地帯は前述の地形等の関係上除外することとしその条件で原告等は昭和二十七年度前記事業の施行に同意した。

二、ところが北蒲原土地改良区は昭和二十九年六月頃に至り本件土地地方の測量を開始したので前記の事情から原告等部落民はなんら同意したことがないので一致して反対陳情等をなしたが、同年十二月に至り同改良区は突如原告等部落民の耕地に立ち入り稲架木を倒し掘返す等着工するに至つたので、直ちにこれが無法を詰ると同時に、右は土地改良法第六十六条第二項にいう土地改良法によつてなんら利益を享受しない土地であり且つ原告等はなんらこれに同意しないものであるから、昭和二十九年十二月三日付内容証明郵便をもつて除外及び工事停止をなすよう通告をなした。

三、一方原告等が調査したところによると、右土地改良区は昭和二十九年三月一日付をもつて土地改良法第四十八条第二三項に基く関係組合員の同意議決を経ずして原告等居村の事業区域の灌漑排水事業其他の条件につき被告に認可申請をなし昭和二十九年五月三十一日付をもつて認可を受けたことが判明した。

四、しかも本件土地地方は土地改良法第六十六条第二項に該当する土地であり且つこれが除外をなすべき旨申出あるものであり又関係組合員の三分の二以上の同意議決に基かざるものであつため該認可申請書類は該改良区に返戻されあることが判明した。

五、右のように被告は瑕疵ある申請に基き前記請求の趣旨記載の認可をなしたもので右は違法であるからその取消を求める。

第二、

被告の答弁の趣旨

主文のとおり。

答弁の事由

原告等が本訴において取消を求める行政処分は、被告が昭和二十九年五月三十一日、土地改良法第四十八条第三項において準用する同法第十条第一項の規定により北蒲原土地改良区が「分田事業所区域のかんがい排水事業、笹岡事業所区域の暗渠排水及び客土、菅谷事業所区域の揚水機施設に関する事業、川東事業所区域の暗渠排水」の土地改良事業を行うことを認可した行政処分を指すもので、右認可処分は新潟県知事から昭和二十九年六月十一日、新潟県告示第八百六十一号として新潟県報による公告がなされたものであるが、右処分に対しては訴願ができる場合であるのにその提起がないものであるばかりでなく、本訴は右処分の公告の日から既に六箇月を経過した後に提起されたものであるから、いずれにしても、行政事件訴訟特例法第二条又は第五条に違反し、不適法のものたるを免れない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例